《認知的不協和》再度の書き込み

 コーチングの理論で一度取り上げた内容ですが、三十年前に使用していた教科書にありましたので、再度紹介してみたいと思います。

 アメリカの社会心理学者レオン・フェスティンガーが唱えた《認知的不協和理論》がある。認知的不協和理論では、個体が環境や自分自身、または自分自身の行動に関して持つ様々な認知、意見、信念などを認知要素という。今、要素aと要素bの間に一致もしくは調和がたもたれていれば《認知的協和状態》にあり、両者の間に不一致、不調和が起きれば《認知的不協和状態》にあるという。例えば、タバコは人間に害をおよぼさないという研究が発表されたとすれば、愛煙家は心理的に安堵する。ところが、喫煙は肺がんのもとであり、喫煙本数と肺がんの発生率の間には非常に高い相関関係が認められるというような知識に接すると、愛煙家は心配になる。自分が喫煙をしているという知識と喫煙は肺がんのもとという知識の間には《認知的不協和》が生じてくる。

 こうした不協和の状態が生じた場合、不快感や心理的緊張が生ずるので、これを低減させる方向に圧力が生まれてくる。すなわち、《認知的不協和》の解消が試みられる。その方法にはいろいろなやり方があるが、通常、行動に関する認知要素を変えたり、新しい認知要素を付け加えたり、認知要素のもつ重要性や価値を減少させようとする試みがおこなわれる。

 上記の喫煙の例で《認知的不協和》を低減させるとしたら、次のような試みをやればよい。その人が強い意志の持ち主なら喫煙をやめるであろうが、そこまでいけない人なら、肺がんの発生率が低いような情報や知識を探すのもよいし、自分だけは例外であるとか、喫煙者で長寿者もいるし、医者の中に愛煙家も多いではないかといった意見を持ちだすであろう。

 もしこうした不協和を解消しないでそのまま残しておくとどうなるであろうか。緊張や不安が未解消のまま放置されることになるので、ノイローゼになりやすい。一般に《認知的不協和》は、自発的あるいは強制的に行動が決定されるときにおこりやすい。