カウンセラーは「聞く」だけ?
会話の「聞く力」を考えるときは、カウンセラーを思い出すといい。カウンセラーの仕事は、基本的に「聞くこと」である。乱暴ないい方をすれば、ただ話を聞くだけでお金をもらうのが、カウンセラーなのだ。
マサチューセッツ州にあるウェズリー・カレッジの心理学者、クリス・クラインケはカウンセラーがクライアントと話している様子をビデオで撮影した。
このとき、会話全体のうち33%を自分が話すカウンセラー、50%を自分が話すカウンセラー、67%を自分が話すカウンセラーと、3つの会話パターンに分け、それぞれの好意度を第三者に判定してもらった。
その結果、最も好意度の高かったのは33%しか話さないカウンセラーだった。実際の話、優秀なカウンセラーほど余計な口は挟まない。そして彼らに話を聞いてもらうと、まるで母親に抱かれた赤ん坊のような気分になってしまうものだ。「聞くこと」のプロは、確実に存在するのである。
会話の「3秒ルール」をつくれ
われわれはカウンセラーのように聞けない理由は簡単だ。人の悩みや相談を聞いていると、ついアドバイスしたくなってしまう。
そこでやってもらいたいのが、相手の発言後、3秒間待つという「3秒ルール」だ。相手が何か発言したら「うん」とか「そうか」と呟き、3秒間待つ。そうすると、たいてい相手が「それでね…」と話しを続けるはずだ。ここで間をあけずに自分の意見を入れようとするから、会話がかみ合わず、聞き上手になれない。
間を恐れる必要はない。相談事を持ちかけられたら、「3秒ルール」で聞き役に徹しよう。
話を聞く「しぐさ」にも注意
相手の「鏡」になってみる
たとえ話が上手でなくても、すぐに実践できる会話術がある。それは、「話を聞くとき、相手のしぐさを真似る」というテクニックだ。
会話とはキャッチボールなのだから、べつに自分が素晴らしい球を投げられなくてもかまわない。相手にいい球をなげさせること、つまり、相手に気持ちよくしゃべらせることができれば、十分に会話の達人なのだ。
そしてこのとき有効なのが、相手のしぐさを真似ること。これは心理学の世界で「ミラーリング」と呼ばれるもので、カウンセラーなどがよく使うテクニックだ。
たとえば、相手が足を組んだらこちらも足を組む、相手は身を乗り出せば、こちらも身を乗り出す。相手がコーヒーに手を伸ばしたら、こちらもコーヒーを飲む。まさに「鏡のように」しぐさをコピーするだけで、相手は気持ちよくなってしまうのである。
会話をスムーズに運ばせるために
ニューヨーク大学の心理学者、ターニャ・チャートランドは、ミラーリングについて次のような実験をおこなった。まず被験者をサクラのスタッフと15分間会話させる。このとき、半分の被験者にはミラーリングを使い、もう半分にはミラーリングを使わない。
そして会話が終了したあと、スタッフに対する好意度を尋ねたところ、ミラーリングされた被験者の6.62点に対して、ミラーリングされなかった被験者は5.91点と低かった(9点満点)
また、この実験ではミラーリングされた被験者のほうが「会話がスムーズだった」と答えている。
つまり、相手のしぐさを真似るだけで、相手から好かれるだけでなく、会話そのものもスムーズに運ぶのだ。
相手の話し方も真似てみろ
しぐさの次は話のテンポ!
相手のしぐさを真似ること(ミラーリング)を覚えたら、今度は相手の話し方を真似てみよう。ここで真似するのは、話し方のテンポやトーンなどである。
たとえば、彼女が明るくデートの話をしてきたら、同じく明るい調子で答える。
また、同僚が真剣なトーンで転職について相談してきたら、同じく落ち着いた真剣な調子で言葉を返す。間違っても笑ったり、能天気なトーンで答えてはいけない。
ゆっくり話す相手にはゆっくりと、早口で話す相手には早口で返すのが基本なのだ。
これについて、バージニア州にあるサフォーク大学の心理学者、ナンシー・プッチネリは次のような実験をおこなっている。
ます39組のペアに、将来の夢や日常生活など、自由に会話してもらう。
そして、その様子を16名の観察者がチェックし、会話のテンポが合っているかどうかを判定する。
すると、会話のテンポが合っていたペアほど、終了後互いへの好意度が高くなっていることがわかったのだ。
テンポを合わせて「共感」する
それでは、なぜ会話のテンポを合わせるのか?
答えは簡単だ。
会話のテンポを合わせることは、「共感」のサインになるのである。ただテンポを合わせるだけで「その話に同意してるよ」「君の味方だよ」「君のことが好きだよ」というサインを、無言のうちに送っているのである。
逆にいえば、会話のテンポを合わさず、自分のペースでしゃべる人からは「共感」など感じることができない。
だからこそ、彼らは嫌われるのである。
相手の「感情語」をくり返す
オウム返しの場所を選べ
優れた聞き役のテクニックに、オウム返しがある。
相手が「仕事、おもしろくないよね」と呟(つぶや)けば、こちらも「おもしろくないよね」とそのままオウム返しする。こう書くと簡単なようだが、心理学の世界で「反射(リフレクション)」と呼ばれる効果的なテクニックだ。
そして単純なオウム返しに慣れてきたら、今度は相手の「感情語」に注目して、それをオウム返しするようにしよう。ここでの感情語とは、発言者の感情が最も表れている言葉のこと。
たとえば、同僚が「先週、彼女と別れちゃってさ」と打ち明けてきたら「別れた?」とオウム返しする。
また、友達が「オレ、今度課長に昇進するんだ」と嬉しそうに報告してきたら「昇進?」とオウム返しする。間違っても「お前が?」などと、ヘンな場所をオウム返ししてはならない。
会話の文末に注目せよ
ペンシルバニア州立大学の心理学者、ロバート・アーリックは、オウム返しの効果について次のような実験をおこなっている。
まず、90名の女子大生をサクラの女性スタッフと会話させる。このとき、半分の女子大生には「感情語のオウム返し」を使い、もう半分には「普通のオウム返し」を使った。その結果、感情語のオウム返しをされた女子大生は、そうでない女子大生に比べ発言数が27%、スタッフに対する好意度が11%も増えたのである。
ちなみに日本語の場合、「文末決定性」という文章の最後のほうに感情語がくることが多い。そのため、感情語を探すときには、できるだけ文末に注目するようにしよう。