安政地震(1855年)の数日後、江戸市中にデマが広がった。『あす再び大地震が来る。早く逃げろ』
すると、老齢の女性が言った。『そんなことわかるはずない。そうなら最初の地震も予言できたはずじゃないか?』聞いていた町民はたちまち黙り込んだとか。社会心理学者の広井修さんの著書【うわさと誤報の社会心理】から引いた。
デマの出現は昔から社会の不安が増した時の常であるらしい。新型肺炎の感染拡大ではトイレットペーパー、ティッシュが不足するとのデマが広がり、商品棚が空となる地域が相次いでいる。業界は在庫は充分にあると呼びかけている。
いかにも不穏な何かを耳にしたとき、一度は立ち止まって信頼できる情報源を探すことが必要だろう。というのも、デマはさもありそうなことを触れ回る特徴がある。トイレットペーパーの場合、『原料の紙のほとんどがマスクの製造に使われ、足りなくなった』などの尾ひれがつくという。
江戸時代の冷静な女性に倣えば、こうともいえるだろう。そこまで大量の紙をマスクに費やすなら、何でマスクが商品棚にあふれ返らないのか?
※読売新聞の編集手帳より