“へこたれない”・・・鎌田 實 著より
風ちゃんは四十五歳。脳性まひで体感機能障害がある。両手は全く使えない。字を書くのも足で。二本の箸も足で持つ。
こんな風ちゃんの話しです。
人は一人では生きてはいけない。人と人とのつながりの中で生きる。だから、人の心をつかまえることが大切。風ちゃんは人の心をつかむ達人だった。
風ちゃんは立ち上がって、自分の詩を朗読した。脳性まひの特徴である筋の緊張が起きて、上手くしゃべれない。身体が曲がる。しぼり出すように始まった。ひと言ひと言が輝いている。上等な一人芝居を見ているようだ。
『昨日、障害者でした。今日、障害者でした。明日、たぶん障害者でしょう』
教室中に涙があふれ出す。
風ちゃんは言い切った。
『ある小学校に講演に行った。校長先生が私を紹介してくれた』
『不幸にして障害を持った風ちゃんです』
この野郎と思った。初対面の他人から『不幸な風ちゃん』なんて言われる筋合いはない。幸せか不幸せかは自分で決めるもの。私は手が動かなくても、足を使って、けっこう幸せに生きている。
風ちゃんがいたずら坊主のように、ニコッと笑った。
身体は不自由だけど、私は自由だ。
身体は不自由だけど、私は不幸ではない。
自由も、幸せも、ちょっと視点を変えれば見えてくる。
自由も、幸せも、よくばらなければ、つかまえることができる。
自由も、幸せも、へこたれなければ、手に入れることができる。
だれでもできる。きっと。