《ほめる技術》

結果ではなく経過をほめよ
人をほめることは、なかなか難しい。特に「以心伝心」や「言わず語らず」の文化をもつ日本人には、何をどうほめればいいのか、わからないことも多いだろう。
そこでひとつ、ほめ方のヒントとなる実験データを紹介しよう。
ワシントン大学の心理学者、フランク・スモールは次のような実験をおこなった。
リトルリーグの子どもたちを、8人のコーチが指導する。そしてシーズン終了後に試合の勝率を測定するのだが、子どもたちの努力をほめたコーチのチームは勝率が52.2%だった。これに対し、ほめないコーチのチーム(野球の指導はする)では、勝率が46.2%にとどまった。
しかも、努力をほめられた子どもたちは「野球が楽しく、コーチが好きで、自分に自信がある」と答えたのである。ほめることにデメリットはないのだ。
ここで大切なのは「努力をほめる」ということ。試合に勝ったからほめるのではない。ホームランを打ったからほめるのではない。それだと回数も限られてしまう。   ところが、努力している姿勢を褒めるのであれば、いつでも何回でもほめられるはずだ。

再否定してほめよ
そして、人をほめるコツとしては「過剰にほめること」「何もしていなくてもほめること」「再否定してほめること」が挙げられる。
再否定とは、相手が「いや、そんなことないよ」と否定(謙遜)しても「そんなことあるって!」と再否定してほめるテクニックだ。これを使うと、ほめ言葉にも真実味が増してくるようになる。

仕事も勉強もほめれば伸びる

ほめて育てるのがべスト
昔から、教育や人材育成の現場では「ほめて育てるか、叱って育てるか」が議論の的となる。もし、筆者が同じことを尋ねられたら、迷わず「ほめて育てよ」と答えるだろう。
ここでは「ほめられると成績が伸びる」というおもしろいデータを紹介しよう。
クリーブランド州立大学コミュニケーション学部のチェリル・ブラッケン助教授は、小学校3~5年生を対象に、次のような実験をおこなった。
実験は記憶のテストで、ある物語を読ませてそれを覚えさせるというものだ。このとき、生徒たちには メモをとることを許可している
そして半分の生徒には、先生が「きれいな字ね」とか「よくがんばってるわね」とほめて回る。もう半分の生徒にはただ「OK」と言って回るだけだ。
すると、ほめられたほうの生徒は、ほめられなかった生徒に比べ34%も物語を記憶することができた。同じ小学校に通う生徒たちなので、もともとの学力に大差はないはずだ。やはり、人はほめられることによって学習能力まで高まるのである。

1日100回誰かをほめろ
ほめられると、人は内的なモチベーションが高まる。部下や子どものやる気を引き出そうと思うなら、とにかくほめることだ。
もし、ほめることに不慣れなら「1日100回誰かをほめる」というノルマを自分に与えること。ネクタイの色でもヘアスタイルでも縦列駐車でもなんでもいいから、人をほめるクセをつけるのだ。いい上司、いい先輩、いい親の条件は「ほめ上手」なのである。

主張をぶつけず、問いかけろ

質問口調に書き換えろ
会話の中で自己主張することは大切だ。しかし、あまりにストレートに主張しすぎても反発を招くだけだ。これは物理の時間に習った「作用・反作用の法則」と同じで、相手を10の力で押す(主張や説得をする)と、押されまいとする相手は同じく10の力で抵抗してくる。つまり、相手の抵抗を取り除く工夫が必要なのだ。
そこで使ってほしいのが「レトリック法」と呼ばれる技術だ。先に実験データから紹介しよう。
オハイオ州立大学の心理学者、ロバート・バーンクラントは、160名の大学生を対象に次のような実験をおこなった。
まず彼らに「大学生には進級のたび、厳しい進級テストが必要だ」という趣旨の文章を読ませる。
このとき、半数の学生には「なぜなら、これは学生自身のためだから」「学生たちの学習を促進するからだ」などと、断定口調でアピールする。そしてもう一方の学生には「これは学生自身のためになるのではないだろうか?」「学習を促進するのではないだろうか?」と、質問口調でアピールする。
すると、質問口調でアピールしたほうが説得効果が高い、という結果が出たのである。

相手の抵抗を軽減せよ
上から主張を押しつけるのではなく、あくまでも下から「・・・だと思いませんか?」と質問する。説得という本音を隠して、純粋な質問であるかのように、決定権を委ねているかのように偽装するのである。
こうすることによって、相手の抵抗を軽減し、自分の望みどおりに誘導していくわけだ。ある種、悪魔的なテクニックといえるだろう。