《伝える力》

ビジョンは語ってこそ意義がある
世に出回るビジネス本を開くと、決まって「ビジョンなきリーダーは去れ!」といったことが書かれている。
しかし筆者はこういいたい。
「会話力なきリーダーは去れ!」
どんな優れたビジョンをもっていようと、それだけで組織を動かすことはできない。人を動かし、組織を動かそうとするなら、自らのビジョンを「言葉にして伝える力」が必要なのだ。
ペンシルバニア州の民間企業研究員、ロバート・バームは、183名の独立起業家・CEOを対象に調査をおこなった。
その結果、企業の成長率(利益・販売量)と経営者のビジョンには、これといった相関関係がなかった。そしてビジョンそのものよりも、経営者が自らのビジョンを伝える能力(ビジョン・コミュニケーション能力)が、2倍も重要であることが明らかになったのである。

中身よりも「伝え方」が大切
これは経験者に限った話ではない。
たとえば「オレはロックスターになってロスの大豪邸で暮らすんだ」という、傍目(はため)から見ればナンセンスなビジョンをもった男がいたとしよう。しかし、それがどんなに荒唐無稽(こうとうむけい)なものであっても、自分のビジョンを伝える能力、語る能力が優れていたら、「夢があってステキ」とついてくる女性も出てくる。
あるいは弱小野球部の監督が「甲子園で優勝するぞ」と途方もないビジョンを語っても、その伝え方さえうまければ生徒たちはついてくる。
人を動かそうとするとき、大切なのはビジョンではない。それをいかに語るか、という会話力なのだ。

生返事に隠れた本音を見抜け

わかっていないのに同意する人
仮にあなたが学生だったとして、学校の先生に怒られたとしよう。そして延々と説教されたあげく、先生から「わかったか」と聞かれる。するとあなたは、ほとんど条件反射のように「わかりました」と答えるだろう。たとえわからず、何ひとつ納得していなくても、だ。
もちろん、大人になってからも同じだ。
人は驚くほどに簡単に、口先だけの「わかりました」を使う。それを見抜けないまま相手をしていると、大変なことになるだろう。
カリフォルニア大学の心理学者、ジョージ、ストーンはおもしろい研究データを発表している。
病院のお医者さんが処方した薬を、どれくらいの人が指示されたとおり飲むかを調べたところ、43%もの人がちゃんと飲まず、また症状が緩和すると量を減らすことがわかった。
そして、薬の量が1個だと15%の人が量を減らし、2~3個だと25%の人が、5個以上だと35%の人が勝手に量を減らすことがわかった。
医者のいうことでさえ、これだけしか守れず、この程度にしか考えていないのである。

同意して議論を終わらせる
それでは、人はどうして易々(やすやす)と「わかりました」と口にするのか。
早い話、それ以上やり合うのが嫌だから、早く話を終わらせたいから「わかりました」と同意したフリをするのだ。 「わかったから、それ以上言うなよ」というわけである。
「わかりました」以外にも「はい」「なるほど」「そうですね」など、多くの言葉が口先だけで語られる。それを見抜く力も、重要な会話力のひとつである。