《わが社の人財》

 わが社の人財・・・・大山泰弘(日本理化学工業会長)

 うちの会社では、多くの知的障害者が生き生きと働いています。「障害のある社員との働き方を、一般の社員にどう教育していますか?」とよく聞かれます。
 今勤めている健常者の社員は、入社まで障害者と接したことのなかった人ばかりです。しかし、これといった教育は行っていません。その必要がないという方が正確かもしれません。
 なぜなら、知的障害者と向き合いながら仕事を続けることで、自然と相手の立場に立って、理解してもらえるよう伝える術を磨くことになるからです。
 健常者のMさんは、仕事をよく休む知的障害者のSさんに困っていました。悩んだMさんは工夫しました。ある日、出勤したSさんを持ち場である製造ラインからあえて外し、『見ていて!』と指示しました。
 Sさんは、自分がいないことで、コンベアーで運ばれてきた製品がみるみる積み上がり、ついに音を立てて床に崩れ落ちる光景を目にしました。Mさんは、『君がいないと、こんなに困るんだよ!』と伝えました。
 知的障害者は、指示の意味を理解し、納得した時には、本当に真面目に取組んでくれます。実際、Sさんはその後休まず働くようになりました。
 私は、社員にこう語りかけています。『うまくいかないことを障害者のせいにはできないんだよ。彼らの理解力に合わせて、納得してもらえるよう説明するのが君らの仕事だ。どうしても難しい時は、みんなで考えることにしているから』
 長く続けてこられたのは、こんな風に、社員が自然に成長する職場環境だったからだと思っています。