《お客様第一主義を考える》

 コーヒー用ミルクの“スジャ―タ”で有名な名古屋製酪という会社を創業した日比孝吉社長は、ロングライフ牛乳を開発した時、その容器をどのようにするかでずいぶん迷ったと言います。選択肢は≪従来の瓶詰≫≪紙パックA≫≪紙パックB≫の三つでした。

 当時はまだ使われていない≪紙パックA≫に切り替えるには年間二千万円、さらに滅菌した≪紙パックB≫にすると四千万円の経費増が見込まれました。迷いに迷った末に日比社長はある所に相談に行きました。出てきたのは経営とはおよそ縁のなさそうなおばあさんでしたが、
『私は、難しいことはわからないが、お客さんはどれを一番喜ぶのかね』と聞きます。
『それはもちろん滅菌した紙パックです』と日比社長が答えますと、
『それがわかっているのなら、何も私に聞くこともあるまい』とおばあさんは言うのです。
『でもうちはえらい損をします』
『損をするといってもお客様が損をするわけじゃないなら、それがいいにきまっておるわ』

 この一言で日比社長は≪紙パックB≫の採用を決め、それがロングライフ牛乳の大ヒットにつながりました。

『損と得の道があれば損の道を行く』といったダスキン、いまの三倍の価格にしても必ず売れるのに『これで十分採算があっています』という世界一のシンビジウム苗メーカー、河野メリクロンなど、みなお客様第一主義を貫き成功している企業です。
  
 船井幸雄 “自然の摂理に従おう”から