今日は、『生きがいの本質』 飯田史彦著より御紹介します。飯田先生の本は、『生きがいの創造』 『ブレークスルー思考』 『ソウルメイト』等数冊読ませていただきました。経営学者として従来の視点とは異なるアプローチをしています。大変興味深いです。
24歳の体格のいい男性が入院してきた。彼は数年前に交通事故で、むち打ち症になって以来、しばしば激しい頭痛に見舞われるようになった。最初は一般的な鎮痛剤を使用していたが、それでは効かなくなり、しまいには、モルヒネ様の鎮痛剤を注射しないと治まらなくなっていた。その痛みはかなり激しく、1日に十本以上の注射をすることもまれではなかった。
当然、何度となくCTやМRI、脳波等の検査をしたが、はっきりした異常を発見することはできず、そのため心療内科に紹介となった患者さんである。
彼の場合、頭痛が起こると、頭を抱え込み、一言もしゃべれなくなり、動けなくなる。ただひたすら苦悶に表情を歪める。痛みのためか、意識もやや朦朧としてくることもあるという。やっとの思いで注射をしてほしいというのであるが、ある時、『いつもの強い痛み止めの注射を打ちますよ』と言いながら、生理食塩水を注射した。もちろん、生理食塩水に鎮痛効果はない。ところが、驚いたことに、痛み止めを打った時と同様、痛みは少しずつ軽減し、20分ほどで完全に消失したのだ。以来、彼に対しては痛み止めの注射は使用していない。
こんなふうに、薬理的には症状の軽減がまったく期待できないような製剤【プラシーボ】を使って、何らかの効果が見られることを、《プラシーボ効果》という。この患者さんも明らかに生理食塩水というプラシーボに反応している。
頭痛が取れるという現実に心理的作用が関与していることは間違いない。どのようなメカニズムで頭痛が軽減するかはわからないが、生理食塩水というプラシーボが、その人の持つ『心の治癒力』をうまく引き出すきっかけとなり、その結果、頭痛の症状が良くなったのではないかと考えている。
もちろんすべての病気を『心の治癒力』で治せるなどという無謀なことを言うつもりはないが、人の心には本来、身体症状や病気を癒す力が存在しており、それをうまく引き出すことさえできれば、症状や病気を軽減、治癒させることが可能であり、一般的な治療と併用することで、より一層治療効果を上げることができるのではないだるうか。