《信玄流人間洞察》

 武田信玄の“人間の性格を知る方法”として、こんなエピソードがあります。

 信玄は、よく子供や若者を集めて合戦の話をするのが好きだった。それが耳学問として、やがて実際に合戦場に出たとき役立つと思うからである。いってみれば、実戦の前の理論講義のようなものだ。

 『合戦の話をするときに、四人の若者が聞いていたとする。聞き方がそれぞれ違う。一人は、口をあけたまま話し手である私をジッと見つめている。二番目は、私と目を合わせることなく、ややうつむいて耳だけを立てている。三番目は、話し手である私の顔を見ながら、時々うなずいたりニッコリ笑ったりする。四番目は、話の途中で席を立ちどこかに行ってしまう』

 こういうように相手の反応を見る信玄は、これらの聞き方によって次のように分析する。
※口をポカンとあけて私を見ている者
 話の内容がまったくわかっててない。注意散漫で、こういう人間は一人立ちできない。
※うつむいてジッと耳を立てている者
 視線を合わせることなく話しだけに集中しようと努力している証拠だ。今の武田家で活躍している連中のほとんどが、若い時にこのような話の聞き方をしたものだ。
※時々うなずいたりニコニコ笑ったりする者
 これは話の内容を受け止めるよりも、その社交性を誇示するほうに力が注がれている。従って、話の本質を完全にとらえる事ができない。
※話の途中で席を立ってしまう者
 臆病者か、あるいは自分に思い当たるところがあってそこをグサリと刺されたので、いたたまれなくなった証拠だ。

 武田信玄流の鋭い人間洞察力です。