《クレーム・一考》

 出口治明(大学学長)のコメント

 日本には『お客様は神様です』という間違った思想が根強いと思います。『お客様第一主義』といえは聞こえはいいのですが、ともすれば客の言うことさえ聞けばいい、という事なかれ主義につながります。

 硬い言い方をすると、物を買う行為は対等な人間同士の売買契約です。客が対応が悪いと主張して、従業員に土下座をさせるような行為が対等な関係とは到底思えません。客も従業員も同じ市民なのです。

 これは当たり前のことですから、職場内でも上司に堂々とあなたの意見を言えばいいのではないでしょうか。同じ気持ちを持つ同僚もきっといるでしょうから、仲間と一緒に改善を訴える方法もありますね。

 最後にクレームの価値についてです。客が欲求不満をぶつけている面がないわけではありませんが、店側が気がつかないことを指摘されて、仕事の改善につながることもあります。

 一般に多くの企業がクレームを大切に扱っているのは、もっといい仕事をするきっかけになるからで、僕自身も会社を経営している時、『どんなささいなクレームでもトップまで上げろ』と指示していました。クレームにはそういう利点があることは心に留めておいてください。