《言葉の力》

たとえば「縁の下の力持ち」にも、別個(べっこ)に、個別(こべつ)に、まなざしを集中してあげるなど、いろいろ工夫を考えるべきだということである。もちろん、人件費が高騰(こうとう)し、売上・利益の低迷(ていめい)によって原資(げんし)が限られている今日、全員にカネで報いることはできない。いかに「縁の下の力持ち」をコトバでたたえても給料を上げることはできないのだ、と反論されそうだ。

しかし、それで良いのだと思う。世の中には給料は増やせないけれども、本当に感謝していると、誠意(せいい)のあるコトバで報(むく)いるという方法があるではないか。ウソのコトバでごまかそうというのでない。誠意ある真実のコトバで感謝し、承認することに意味がないはずがない。いつの間にか高い評価も低い評価も避(さ)けてしまう仲良しクラブになった組織を、もう一度、はっきり評価がフィードバックされる組織に変革(へんかく)すること、また、その際に縁の下の力持ちを初めとする多様な貢献(こうけん)をきちんと評価すること、これが大事だということである。

「縁の下の力持ち」以外にも、多様な役割を果たしている人々が組織にはたくさん存在する。新しいアイデアを出して会社に貢献する人もいれば、複雑なシステムをミスなく運営することで会社に貢献する人もいる。若手を育成するには長(た)けている人もいれば、腐りそうな中高年層にカツを入れるのがうまい人もいる。大規模な組織になるほど、多様な貢献の仕方が可能であり、多様な生き方ができるはずである。そのすべての仕事にカネや地位で報いることはできないまでも、そのそれぞれの仕事をきちんと評価して、貢献したと承認する作業が組織運営の根幹(こんかん)のはずである。