投稿者「経営システム研究室」のアーカイブ

《ゴール設定理論》

世界の経営理論・・・入山章栄著より

ゴール設定理論で重要な要素は「目標の高さ」だった。そして社会認知理論では、その目標の高さに影響を与えるのが、自己効力感なのだ。人は自己効力感が高いほど、「自分はもっとできる」と考えるので、より高い目標を設定する。さらに、自己効力感が高い人は実際の行動・努力の自己管理も徹底して行う。したがってこのような人は、逆境でも努力を持続できる。結果、自己効力感の高い人は優れた成果を上げやすく、そのフィードバック効果でさらに自己効力感が増していく。
では自己効力感そのものは、何に影響を受けるのだろうか。バンデューラが提示した主な要素は以下の4つである。
①過去の自分の行動成果の認知(mastery of experiences):先のフィードバックのことである。
②代理経験(vicarious experiences):代理経験は「他者の行動・結果を観察することで、自身の自己効力感が変化する」ことを指す。一般に、自分と似た人が似たような業務を成功させれば、「それなら自分もできるはずだ」と考え、自己効力感が高まる傾向がある。逆に、似た人が業務を失敗させると、「彼ができないのだから、自分にも難しいだろう」と考え、自己効力感は低下する。
一般に「競争による相乗効果」などといわれるものは、このメカニズムで説明できる。似た者同士を競わせれば、誰かが成功すると、代理経験効果を通じて周囲の自己効力感・モチベーションも上がるからだ。実際、教育心理学分野では、習熟度におけるクラス分けの効果などが、このメカニズムをもとに研究されている。
③社会的説得(social persuasion):「君ならできる」というようなポジティブな言葉を、周囲が投げかけることだ。
④生理的状態(physiological factors):人は精神・生理的不安に陥ると「自分ではこの責務は果たせない」という心理につながりがちだ。経営学ではこの視点をもとに、職場のストレスマネジメントの研究も進んでいる。

《モチベーション》

 世界の経営理論・・・・入山章栄著より

 職務特性理論に基づく「モチベーションを高める職務の5大特性」を体現する事例として、WiLの事業をここでも取り上げよう。
 WiLはシリコンバレーでベンチャーキャピタリストを務めていた伊佐山元氏などが中心になって、日本の大企業からイノベーションを起こすために2014年に立ち上げられた企業だ。
 WiLは2014年にQrioというIoT技術を使ったスマートロックを開発・販売する合弁会社を、ソニーと共同出資で立ち上げた。ここで興味深いのは、WiLはソニーの若手エンジニアを、この小さな合弁事業会社に転籍させたことだ。そして伊佐山氏によると、大企業から小さなスタートアップ企業に移ったことで、エンジニアは飛躍的にモチベーションを高めたという。
 大企業では、エンジニアは「自分が開発しているものが、最終的にどのような製品となり、どう使われる」がわからないことも多い。顧客の声に触れる機会も少ない。先の5大特性で言えば、「アイデンティティ」と「フィードバック」が弱いのだ。顧客の声が聞けなければ、その製品が社会にインパクトを与えているかもわからない(=「有用性」が弱い)。さらに大企業では、社員の役割は限定されることが多い(=「多様性」が弱い)。当然、「自律性」も制限されがちだ。
 一方でスタートアップ企業なら、この状況はすべて逆転しうる。スタートアップ企業では、エンジニアはすべての業務プロセスに携わらざるをえず、結果として顧客の声に触れる機会が増える。そうであれば、自分が開発している製品の有用性を知る機会も増えるだろう。仕事の自律性が高くなるのは言うまでもない。結果としてQrioでは転籍したエンジニアのモチベーションが高まり、大企業だと1年かかるプロジェクトを3カ月で実現したそうだ。現代のIoT分野は「多産多死」が前提のスピード競争をしているから、このようにモチベーションを変えてスピードを速める施策が重要なのだ。
 ニーズ理論や職務特性理論は一定の説明力を持つものの、モチベーションのメカニズムの全体像を描けるものではない。一方で、より普遍的な法則としてモチベーション向上・低下のメカニズムの全体構造を描こうとする理論が、1960~70年代に心理学分野で次々と登場した。先のシャピロらのAMR論文は、この時期を「モチベーション理論の黄金時代」と呼んでいる。
 黄金時代に生み出された理論の多くは、主に認知心理学をベースにする。モチベーション醸成において、人の認知は大きな役割を果たす。人が仕事に持つ「喜び・達成感・つらさ」などは、その人が認知して初めてモチベーションに影響を与えるからだ。

《マニュアル化》

世界の経営理論 入山章栄著より

進化理論の意図するルーティンを体現する企業は、例えば「無印良品」(MUJI)ブランドで有名な良品計画ではないだろうか。現在グローバルに躍進する同社だが、2001年に松井忠三氏が代表取締役社長に就任してからの同社の現場づくりは、まさに進化理論のルーティンを考える上での格好の材料といえる。
なかでも興味深いのは、同社のマニュアルである。良品計画のマニュアルはMUJIGRAMと呼ばれ、現場スタッフに広く浸透している。松井氏は著書の中で、MUJIGRAMについて以下のように述べる。

日本では、マニュアルという言葉にネガティブなイメージがあります。
マニュアルを使うと、決められたこと以外の仕事をできなくなる、受け身の人間を生み出す、とよく指摘されています。
無味乾燥なロボットを動かすような、画一的なイメージがあるようです。(中略)
しかし、そもそもマニュアルは社員やスタッフの行動を制限するためにつくっているのではありません。むしろ、マニュアルをつくり上げるプロセスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが目的なのです。

この発言は、従来の「マニュアル化」の通念を覆すものではないだろうか。良品計画では、マニュアルを本部がつくって社員に100%従わせることを、目指していない。むしろ、現場がマニュアルをたえず改訂し続けることで、「常に改善する」姿勢を組織の行動パターンとして「ルーティン化」しているのだ。
実際、同社のマニュアルづくりは現場主導で、現場と本部がコミュニケーションを取りながら、最低でも月一度は見直される。「マニュアルに完成はない」という思想だ。結果として、現場の社員はマニュアルに従いながらも、そのマニュアルに改善点がないかを常に考えながら行動するパターンを日々繰り返す。マニュアルにより行動パターンがある程度標準化されているからこそ、スタッフの認知キャパシティに余裕が生まれ、改善点を見つけられるのだ。
このように、「マニュアルを常に見直す」ことを前提にした暗黙の行動パターンがルーティン化されるとともに、形式知としてのマニュアルが蓄積され、常に現場が進化・成長を続けるのである。良品計画に限らず、トヨタ自動車、京セラ、デンソーなどいわゆる「現場が強い」と呼ばれる日本企業では「進化のためのルーティン」が醸成されている、というのが筆者の理解だ。

《いろんな観点から見抜く》

【「良いものとはどういうものか」を間違わない】

評価というのは、良し悪しを指摘することです。つまり、良し悪しがわかっていなければ評価はできません。良し悪しを見抜く力、これが「眼力(がんりき)」です。
では「眼力」とは何を指すのか?まず第一に「良いものとは何か(どのような状態なのか)がわかっていること」、しかも「その良いものの中での優劣(ゆうれつ)がわかっていること」です。
そもそも、どういうものが良いものなのかを間違えていますと、すべてが狂ってしまいます。教える気力もあり、いろいろな方法論も知っている。しかしめざすべき“良いもの”の観点が狂っていると、部下を育てて導くことは不可能です。
良いものを見間違わないために、教える側は、たくさんの良いものに触れていなければいけません。現在直面している仕事の成功例や、その仕事において「できる人」とはどんな人なのかを知っている。これが重要なのです。

【単なる「ダメだし」ではなく、良くなったイメージを伝える】

といっても、悪いところを直接指摘して伸びる人、それでやる気を出すという人は、実際のところほとんどいません。ですから、いちばん悪いところを指摘するときは、褒めるのと抱き合わせて言うのがコツです。全体的には、褒めている口調の中で言うのです。「ここをもうちょっとこうしてくれるといいんだけどな」という形で言うと、相手も受け止めやすいものです。
簡単に言えば、「これがダメなんだ」ではなく「こうしてほしい」「こうなってほしい」という願望を伝えるのです。「ここがダメだ」と指摘するだけでは、言われたほうはシュンとなるのがふつうです。だから、次のイメージを伝える。良くなった状態を伝える。相手の持つものの中で、良いところを取り挙げて、ここを増やしてくれ、と言う。10あるうちの1ができていたら、その部分を5まで増やしてくれ、5になったら、また別のところも5に増やしてくれと、相手の持つものを評価する。ないものねだりは厳しいですから。
しかし、現実問題として、私は「タフな人を雇う」というのがポイントだと思っています。人の意見を素直に聞き入れることができる人を雇ってほしいものです。

《評価を避けるべきではない》

【評価することを恐れてはいけない】

 いま、多くの学校では、できる・できないを指摘(してき)することは、その子の人間性を否定することにもなると考えています。その子が生きる気力を失い、ふてくされる。それを心配して、「できる・できないについては言及(げんきゅう)するのをやめてしまおう。できる・できないと人生は関係ないのだから」と評価を避けるようになっています。
 そうした学校教育の影響によって、教わる側が甘さに慣れてしまって、打たれ弱くなっているのも事実です。社会人になったからといって、急にたくましくなるわけではありません。ちょっとでも叱られるともうダメ。評価されるというだけでダメ。そういう弱い感性です。
 そして、そんな弱さを助長(じょちょう)するのが、きちんと指摘をしないという、教える側の姿勢です。
 競争しろというのではなく、学校でも会社でも「できない状態からできる状態に移る」ことを学ばなくてはいけないわけです。会社では、できない人が入ってきたときに、できる状態にして役に立つようにする。それが目標ですから、その基本から逃げてはいけないのです。
 評価されることに慣れていないと、やがては、自分を評価の目にさらすということを徹底して避けるようになってしまう。プレゼンや査定(さてい)面接が嫌いになったり、大事なところで逃げてしまったり・・・。これでは、仕事になりません。仕事という局面でも、やはり、自分をさらす勇気というのは不可欠なものでしょう。

《資格と評価》

スキルとは、仕事に活用できる具体的な技術やノウハウです。たんなる知識や資格とは違いますし、職務や役職ではもちろんありません。具体的に「○○を△△にできる」という文章であらわされるのがスキルです。具体的な事例で見ていきましょう。次の例ではAとBの2つのうち、どちらがスキルでしょうか。

A 簿記2級を持っている
B 決算資料を作成できる

Bがスキルですね。採用面談などで、ともすれば「簿記2級を持っています」と話してしまいがちですが、これはたんに資格を持っているに過ぎません。資格は知識や技能のレベルをあらわす一つの指標ではありますが、実際にその知識や技能を使って何ができるのかが重要です。そのため、決算資料を作成できるといった具合に、売上を上げたりプロジェクトを運営したりするために、具体的にそれをどう役立てることができるのか、説明できなければ、アピール力を持たないのです。
もう一つ見てみましょう。

A 人事を担当している
B 能力給制度導入のための分析調査ができる

これもスキルはBです。人事を担当しているというのは、会社での役割をあらわしているに過ぎません。能力給制度導入のための分析調査ができるということであれば、その経験を買われて、即戦力として高い報酬で雇ってもらえるかもしれません。

《知識と技術》

「知識」とは、聞かれたら答えられること
「技術」とは、やろうとすればできること
これを具体的にイメージするには、自動車教習所を思い浮かべていただくといいでしょう。そこではカリキュラムを「学科教習」と「技能教習」にはっきりと分けていて、それによって教える側も教えられる側も“今は知識を学ぶ時間だ”“今日は技術を習得しよう”というように意識し、効率よく学ぶことができます。
衣料品のお店であれば、例えば「今シーズンのファッション・トレンド」「素材ごとに異なる洗濯の注意点」「商品の追加発注をするための電話番号」といったことが“教えるべき「知識」”。スタッフ全員が「聞かれたら答えられる」という状態になるよう、指導しなければなりません。
一方「商品の入荷・検品・品出し業務」「服のたたみ方」「お辞儀の仕方」「プレゼント用の包装」などの「技術」は、実際に「やろうとすればできる」ようにトレーニングを積んでもらう必要があります。
教える内容を「知識」と「技術」に分けることで、指導の内容や手順がスッキリとしますし、もし指導がうまくいかないことがあっても「技術が未熟? それとも知識が不足してる?」とチェックすることで原因が見つけやすくなります。
知識 技術
衣料品店の開店準備の例  仕入表の場所がわかる
 仕入表の見方がわかる
 預けてある鍵の場所がわかる
 店舗の鍵の仕組みがわかる
 店内BGMを流す装置の仕組みが分かる
 商品在庫と追加発注の電話番号が分かる
 プレゼント用の包装紙の場所がわかる  引継ぎ書の作成ができる
 店内の電気のスイッチの点灯と消灯ができる
 レジを手順どおりに打つことができる
 衣服を決まった位置に在庫を入れることができ、検品できる
 店内BGMの音量をコントロールすることができる
 品出し陳列ができる
 フィッティングの準備ができる
★: まずは「知識」のチェックです。
教える仕事にかかわる専門用語や成果につながる重要なポイントなど、チェックリストをもとに「知識のポイント」をまとめておき、一問一答形式でテストしてみるのがいいでしょう。

□: たとえば「○○という言葉を知っていますか?」「クレームがあった場合、誰に報告しますか?」といった感じで?

★: そうですね。
次に「技術」については実際にやってもらいチェックします。
これも確認すべき「技術のポイント」をチェックリストからつくっておきましょう。
「技術のポイント」と照らし合わせることで、具体的なフィードバックができるようになります。

《ガスリーのコート》

 ≫いくら言ってもコートをかけない子ども

 カウンセリングのスキルのなかには、行動心理学、あるいは行動療法と呼ばれるものがあります。これは『ガスリーのコート』という話のなかで紹介されています。
 『ガスリーのコート』では、次のような質問が投げかけられます。

「子供が外出先から帰ってくると、コートをかけずにポーンとそこに放り出して出かけてしまいます。親のあなたとしては当然『コートをかけなさい』と注意します。しかし子どもはその時だけ『ハーイ』と生返事をして、また翌日学校から帰るとコートを放り投げます。さあ、あなたはこの子どもにどうやってコートをかけさせますか」

 私はカウンセリング講座でいつもこのコートの話をするのですが、「叱りつける」「コートをかけるまで外に出てはいけない、と言う」「コートをかけるまでご飯を与えない」「子どもがコートをかけたくなるような、かわいいキャラクターのハンガーを買ってあげる」…いろいろな意見が出てきます。

 しかし、正解者はなかなかいません。この場合の正解はこうです。
 「子どもに放り出したコートを着せて、もう一度ドアの外に出し、改めて『ただいま』と言って入ってこさせる」
 つまり、全く同じシーンを繰り返させ、コートをハンガーにかけることができるまで、繰り返しトレーニングするというのが『ガスリーのコート』の教訓なのです。
「そんなことをして、本当に効果があるのだろうか?」と思う人がいるかもしれません。しかし繰り返しがなければ、習慣として身につかないのです。

《行動を変えると結果が変わる》

 ≫すべてのビジネスは行動の集積でできている

 いかなる企業(店舗)も当然ながら売り上げアップに必死です。そこで重視されるのが目標設定。
 会社の売上げ目標額はそれぞれの事業部門や店舗に振り分けられ、それをもとにそれぞれの社員の個人目標が決まります。
 そして、各社員のがんばりは「目標を達成したか?」「いくら足りなかったか?」という「結果」によって判断される。それが一般的なマネジメントですよね。
 もし、目標が達成できなかった人がいれば、「どうした!? もっとがんばらなきゃダメじゃないか!」と檄(げき)が飛(と)ぶことになります。
 では、このように、目標の数字を決め。それを達成できたかどうかという「結果」だけに着目していれば、確実に業績は上がるのでしょうか? 「結果」だけをチェックすれば、社員は成長するものなのでしょうか? 答はノー。
 注目すべきは「結果」ではなく「行動」です。
 なぜならば、物事の成果は、すべてその人の「行動」の積み重ねによって成り立っているからです。
 たとえば、100mを55秒ジャストで泳ぐ自由形の水泳選手がいたとしましょう。
 タイム(結果)は、飛び込み、ストローク(腕の動き)、キック(脚の動き)、息継ぎ、折り返しの動作、ゴールタッチなど、一つひとつの行動の集積によって生まれています。
 さらにタイムを縮めたいと考えたとき、指導者は何をすべきでしょう?
 「とにかく54秒台を目指せ!ガッツだ!根性だ!」と声を荒げるだけで、確実に記録が伸びると思いますか? 思いませんね。
 選手の一つひとつの動作(行動)をチェックして改善すべきところを伝え、それが実践できるよう指導することで、成果は上がっていきます。

 ビジネスだって同じ。すべての結果は社員の「行動の集積」によるものです。
 行動を変えるためのひとつとして、シンプルで有効的な方法があります。それがグラフ化です。
 数えた回数をグラフ化するのに、特別なスキルは必要ありませんし、言葉や態度で示すのが苦手な人にとってはかえってやりやすいはず。

 壁に貼っておけば、部下たちがいつでも目にすることができますから、順調に行動の数が増えている人にとっては大きなはげみになりますし、数が増えていない人は「もっとがんばらなきゃ!」という気になるでしょう。

 もうここまでお読みの方ならお分かりだと思いますが、グラフ化するのは「成果」ではありません。結果(成果)を変えるには、そこにいたる行動を変えるしかない。
 この原則に沿って“成果につながる、望ましい行動”を増やすのが目的のメジャーメント&グラフ化によるフィードバックですから、回数を数え、グラフにするのは“成果につながる、望ましい行動”でなくてはなりません。

《リーダーシップのスタイル➂》

世界標準の経営理論・・・入山章栄著より

【シェアード・リーダーシップ】Shared Leadership:SL(2000年代~)

シェアード・リーダーシップは、我々に大胆な発想の転換を求める。従来のリーダーシップ理論は、いずれも「グループにおける特定の一人がリーダーシップを執る」という前提だった。一方でSLは、「グループの複数の人間、時(・)に(・)は(・)全員(・・)が(・)リーダーシップを執る」と考えるのだ。「リーダー→フォロワー」という「垂直的な関係」ではなく、それぞれのメンバーが時にリーダーのように振る舞って、他のメンバーに影響を与え合うという、「水平関係」のリーダーシップである。
なぜ近年になって、SLが注目され始めたのだろうか。クレイグ・ピアーズは、SLは特に「知識ビジネス産業」において極めて重要、と述べる。
いまやビジネスにおいて、新しい知を生み出すことが重要なのは言うまでもない。そして、「新しい知は、既存の知と既存の知の新しい組み合わせ」から生まれる。したがって組織内のメンバーの知の交換こそが、何よりも重要になる。
この知の交換の過程でSLが重要となる理由は、心理学の社会認識(social identity)プロセスで説明できる。あるメンバーが「自分が(その)グループに属している」という心理的アイデンティティを持てるなら、その人は他メンバーと知識を積極的に交換する心理メカニズムが働く。
しかし、もしグループのリーダーシップ関係が、従来のような垂直的なものであれば、リーダーはグループを「自分のもの」と思えても、フォロワーはそのようなアイデンティティを持ちにくい。一方で、もしグループにSLがあるなら、そのメンバー全員がリーダーとしての役割・当事者意識を持てる。すなわち、メンバー全員が「これは自分のグループである」というアイデンティティを持ちやすくなるのだ。結果として、知の交換が積極的に行われるようになる。
実際、近年の実証研究では、「従来型の垂直的リーダーシップよりも、SLの方がチーム成果を高める」という結果が多く示されている。例えば、ピアースが2002年に発表した研究がその一つだ。
この研究でピアースは、ある米自動車メーカーの、社内横断的な71の変革チーム(平均人数は7.2人)を対象とした実証研究を行った。このチームは様々な部署の人が集まって構成され、社内改革のために彼らが知恵を出し合う。まさに知識を交換し、生み出すためのチームといえる。ピアースらは、まず「各チームのリーダーシップが垂直的か、SL型か」を計測し、その6ヵ月後に各チームのパフォーマンスを計測した。すると、経営陣からの評価においても、顧客の評価においても、垂直型よりもSL型の方が、パフォーマンスが高くなったのだ。
この法則は、いまや経営学者のコンセンサスとなりつつあると言っていいかもしれない。2014年にアリゾナ州立大学のダニ・ウォンらがJAP誌に発表した論文では、SLに関する過去の42の実証研究をまとめたメタ・アナリシスを行っている。その結果、これまでの研究の一般的な傾向として、やはり①垂直的なリーダーシップよりもSLの方がチーム成果を高めやすいこと、②この傾向は特に複雑なタスクを遂行するチームにおいて強いこと、を明らかにしている。