彼はどんどん不安になっていった。仕事が手につかなくなる。そうすると、ますます不安な気持ちが強くなる、そのように気弱になっている自分に対しても腹が立ち、気持ちが沈み込んでくる。
夜もなかなか寝つけない。眠ったと思ってもイヤな夢を見て目が覚める。倒産が夢の中に現れることさえあった。仕事といっしょに心もコントロールを失っていったのだ。
「本当に仕事に追われていました。毎日毎日、帰るのは夜中の一時、二時で、そして朝六時には起きて家を出て、という生活が続いていました。最初は、本当にやりがいを感じていたのですが」
外来を受信した加藤さんはうつろな目で窓の外を眺めた。
ところが仕事が増えれば増えるほど自分でしなくてはならないことが増えてくる。そのうちに、ひとりぼっちだという思いが強くなっていった。
「倒産しそうになっても、こんな小さい会社のことなど誰も心配してくれないだろう」と、諦めに似た不信感が心の中に広がってきた。「いくら働いても自分の会社のためだし、誰も認めてはくれない」という意識が強くなってきた。
それでも仕事は増え続ける。
いったいこれがどのように終結していくのか、彼には見えなくなっていった。
いくらやっても、いくらやっても終わりがない、そうした状況になっていったのだ。そしてある日、彼は会社に行けなくなった。
朝起きても気力がわいてこない。ぼんやりと天井を見つめているだけだ。何かを考えているわけでもない。頭の中は真っ白で、時間だけが過ぎていく。
「一生懸命やったのに」と悔しそうに口を堅く結んだ。
彼は学習性無力の状態に陥っていた。次々と仕事をこなしてはいたが、その成果が目に見える形では現れてこないために、自分が何をしているのか見失ってしまったのだ。そして、途方に暮れてしまった。