《貧乏ひまなし》

あまりにも多数の例外事象が発生すると、組織内を上下に流れる情報が過剰になり、上司たちが自分の頭で考える時間がどんどん減っていってしまう。これが極端なところまでいくと、トップ・マネジメントまで日常業務の例外処理に追い回されるようになる。その企業が長期的に存続し、成長していく上で必要なことを考える人が一人もいなくなってしまう。

そもそも人間は、目の前に大量のルーチンワークを積まれると、その処理に追われ、創造的な仕事を後回しにしてしまう傾向がある。創造的な仕事とは、仕事のやり方自体を根本から変えるとか、長期的な展望を描いてみるといった作業のことである。「ルーチンワークは創造性を駆逐する」。ハーバード・サイモンの言う意志決定のグレシャムの法則(計画のグレシャムの法則)である。つまり、日々のルーチンな仕事に追われている人は、ルーチンな仕事の処理に埋没して長期的な展望とか革新的な解決策とかを考えなくなってしまう、ということである。

膨大なルーチンワークが存在し、それに追われている状況というのは、背後に何らかの構造的な要因があることを意味しており、本当は何が本質的に問題なのかを考えなくてはならないはずなのに、それを考える余裕がない。「貧乏ひまなし」だから、「貧すれば鈍する」のである。(もちろん逆に、暇が多くなった組織では、「小人閑居して不善を為す」という問題に直面することもある。忙しすぎるのも、暇なのも、どちらも問題がある)。